Hologon:ホロゴン

 
 

 好奇心旺盛なグラッツェル博士が、テッサーの他に4枚玉で何か新しい光学系はないかと試行錯誤を重ねた上、誕生したのがホロゴン。最終型は、中玉2枚が研削による連接となり、4枚ではなく3枚構成となった。ホロゴンの語源は、ギリシャ語のホロス(全てという意味)とゴン(GONIO:大きな角度)の合成語である。ホロスとは、目の前にあるもの全てを写し込むことが可能であるという意味合いがある。発色やシャープネスはもちろん、画角100度を越えながらも、ディストーションが事実上ゼロという驚異的なスペックのレンズである。周辺の光量落ち込みが激しい為、グラデーションフィルターが用意された。
 最初に登場したのがホロゴン・ウルトラワイド。専用カメラにレンズが据え付けられ、あまりに超広角な為、本体下のグリップを持って操作するものであった。設計上、フランジバックが極端に短い為、前述の専用ボディやレンジファインダー機でのみ使用可能であった。その写りと精緻な設計が脱帽に価することは、宿敵のライバルであるライカ社が証明している。ライカはこのホロゴンに替わるものを自ら作らず、ライカMマウント用のホロゴンをツァイスに発注した。極めて高価なこともあり、実際の流通量はごく僅かで、今でもかなりの高値で取引されている。
 80年代に入り、一度このレンズは途絶えてしまったが、96年のAFレンジファインダー機、CONTAX G1の発売と共に再び命が吹き込まれた。オリジナルは貼り合わせ箇所の無い研削レンズ3枚という豪華な構成だが、Gマウントのホロゴンは2枚多い5枚構成。しかも、2箇所の貼り合わせがある。レンズ構成は大きく変化したものの、大きなコストダウンを図ることが実現した為、多くのユーザーが高嶺の花であったホロゴンを、手中へと導いた。その写りは期待通りのものであり、今でもGシリーズの中で唯一のドイツ製レンズである。実にコンパクトなレンズで、ボディに装着すると、まるでキャップ代わりである。グラッツェル博士も「私のオリジナルデザインのホロゴンを、今の若い世代の人が引き継いでくれた」と、銘レンズの復活を心から喜んでいたそうだ。その吸い込まれそうに美しい特異な前玉はまさに「神の瞳」である。

 

 

 

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